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トヨタ空想科学会社

Googleで「トヨタ F1復帰」と検索すると、一番最初にという気になるタイトルのまとめ(※現在は非表示)がヒットする。

 

その執筆者が挙げている5つの理由をまとめると、

トヨタには優れたハイブリッド技術がある

②欧州の拠点(TMG)がすでに存在している

③TMGには優れた風洞設備がある

④レッドブルのPU供給元が不透明(注:2016年3月の記事)

⑤アメリカンチームのハースはPU供給先として魅力的

これを読むと確かにF1復帰の条件は揃っているようだが、肝心な「なぜトヨタがF1に参戦するのか?」には一切触れられていない。

おまけに最後には

以上が5つの理由になりますが、結局はやくF1に戻ってきて欲しいというのが最大の理由ですね。(笑)

などと書かれている。要は筆者の妄想で、タイトルは「釣り」である。この記事は極端な例に見えるが、ジャーナリストやファンの願望や希望的観測が独り歩きして、噂として広まってしまうケースは結構ある。

参考:

 

確かにトヨタは以前ホンダと共にF1にフルワークス参戦していたため、復帰の可能性を夢見る人は多い。しかし現実にはその可能性は限りなく低い。

本記事ではリーマン・ショックから立ち直った今のトヨタがなぜF1に参戦しないのか、その考えられる理由を4点にまとめてみた。

 

①豊田章男社長という存在

トヨタがF1に参戦しない理由を語る上で、豊田章男氏を外すことはできない。章男氏は社長に就任して一年も経たない2009年末にF1撤退を決定し、さらに2014年には「」と断言している。

 

この話だけ聞くとモータースポーツ大嫌いな社長なんだな、と思うかも知れないが実際は真逆。『モリゾウ』の登録名で、自分でステアリングを握ってニュルブルクリンク24時間レースや全日本ラリーに参戦したり、WRカーやNASCARマシンでテスト走行するほどモータースポーツ大好きな社長だ。

参考:

 

WRC(世界ラリー選手権)の参戦表明にて。WRカー規定のヴィッツを見た喜びを、「18年恋い焦がれた彼女に会えた感じ」と表現した。より。

 

F1も無理やり撤退に追い込んだのではなく、むしろTMGのためを思ってF1慰留を考えていたという。

しかし当時の経済状況がそれを許さなかった。世界販売台数1位を争っていた米GM(ゼネラル・モータース)とトヨタは、大企業病のせいで慢性的な赤字体質。そこにリーマン・ショックが襲来しGMは破綻、トヨタも2009年3月の連結決算では創業以来初の赤字(最終損益4369億円)となり、同時に750万台という大規模なリコールも発生した。この状況を「トヨタの消滅前夜」と重く捉え、章男氏は自分の社長という立場を踏まえてF1撤退の決断に至ったという。

 

しかしその大ピンチを乗り切った今なら、F1参戦の余裕はあるはず。

なのにモータースポーツに理解のある章男氏が、F1だけは参戦しないと言い切っているのはなぜなのか?その根底にある章男氏独自のモータースポーツ観を、二つのキーワードで読み解いていこう。

 

1.「FUN TO DRIVE, AGAIN」

章男氏はレースに参戦するだけでなく、様々な会場やイベントに顔を出している。Jスポーツの放送席や、スーパーGTに顔を出す。一般の競技者に混じってラジオ体操もする。ファンに向けても書いているし、で配信もしている。

自分が良いと感じたらライバル社の車やドライバーであっても賞賛を惜しまない(、、など)。

また自社に関しても「」とか「」とか、社長というより一人の車ファンとしての発言も多い。

 

「若者が車から離れたのでは無い、我々が若者から離れたのだ」と語り、若者との話し合いの場にも参加している。より。

 

社長が自ら一般のファンのもとに歩み寄る、こうした地道な広報活動は、彼が豊田一族でありながら平社員から始まり自分の脚で歩く営業で長年下積みをして得た教訓だと思われる。

 

車の楽しさと歓びをより多くの人々に伝え、「自分も車を運転したい!」「モータースポーツにエントリーしてみたい!」という熱い気持ちや車への愛を感じて欲しい。そして自分たちも安くて運転を楽しめる車を作る。それこそが章男氏の原動力であり、車文化復興=「FUN TO DRIVE, AGAIN」だといえる。

今のトヨタがGAZOOという車情報サイトを運営しているのも、広告費を市販車だけでなくに使っているのも、より多くの人々に車のワクワクを伝え、車文化の裾野を広げたいという信念の現れである。

 

一方でF1はどうかといえば、色々と浮き世離れしすぎていて、我々一般市民からは遠すぎる。

上位チームは1年間に400~500億円も金注ぎ込み、政治的な抗争に死力を尽くし、あらゆる手を使って勝とうとする。

下位チームは高いコストに苦しんでいるので、何十億円という大金を持ち込めるペイドライバーばかり優先的に雇う。そして金が払えなくなったら、腕があっても捨てられる。金を絞りとるだけのビジネスと半ば化しているチームもある。

その結果各チームの戦力差は固定化され、年間21戦もやっているのに勝てるのは毎年2チームだけという状態が続いている。

さらにF1はドライバーだけでなくファン、TV局、サーキットからも高額な料金を搾り取っている。

しかしファンの方も「金をじゃんじゃん使うのがF1だ」とむしろそういうものを見たがり、歓迎する趣すらある。

 

したFRスポーツカーの86。スバルとの5年以上に及ぶ共同研究により低価格と素性の良さを両立した。モータースポーツでもプロアマ・カテゴリ問わず人気が高い。より。

 

世界一の大企業の社長でも、一般のファンたちに歩み寄る章男氏と、金をいかに高く絞りとるかを考えてセレブを優遇し大衆を軽視するF1。

章男氏の理想とする身近で大衆的な「車文化」と、大富豪やエリート限定の貴族主義・エリート主義の象徴である「F1文化」は対極の位置にある。

 

参考:

 

2.「もっといいクルマづくり」

章男氏はWRC参戦時の会見で、「」と語っている。

この考え方自体は章男氏の専売特許ではない。例えばホンダの初代NSXも、アイルトン・セナにキツいダメ出しをされた後、テストコースを悪路で名高いニュルブルクリンクに移した。すると急激にクルマの出来が良くなったという有名な話がある。他にも日産GT-R、スバルWRX STI、三菱ランサーエボリューションなど、日本車でもスポーツカーの多くはニュルで鍛えるのが半ば常識となっている。

だが今の自動車メーカーの社長で「道が人と車を鍛える」ことをここまで強く語る人は、章男氏以外にいないのも事実だ。

参考:

 

WRカーで華麗にドリフトする『モリゾウ』こと章男社長。

 

レクサス史上最高傑作のスーパーカー・『LFA』の開発秘話は章男氏の「道が人を鍛える」という信念の誕生秘話にもなっている。若い頃から車を運転することが大好きだった章男氏は、頑固親父印なドライバー成瀬弘さんに頼み込んでドライビングの基礎を1から教わった。そして成瀬さんとともに過酷なニュルブルクリンクで、テストやレースに参加してLFAを鍛え続けた。成瀬さんは2011年、ニュルでのテスト中に事故で亡くなってしまったが、一台の究極のスーパーカーをニュルで自ら鍛え、仕上げたことが章男氏のモータースポーツ精神の礎になっている。LFA完成後も章男氏は多くのレクサスやトヨタの新車・試作車をニュル24時間レースに投入しつつ、自らも参戦している。

また鍛えたドライビング技術と感覚を活かして章男氏自らも開発中の市販車でテスト走行し、走りの味について吟味をしている。

参考:

 

レースで車を鍛えて、そして「もっといいクルマづくり」へ繋げる。レースで鍛えたワクワクするクルマをより多くの消費者に届ける。それがもうひとつの章男氏のモータースポーツ観だ。

 

2015年のニュル24時間に参戦したLFA Code X(SP-PROクラス優勝)。LFAに注がれた技術と精神は、今日のレクサス車にも継承されている。またレクサスの顔であるスピンドルグリルは格好良さ・悪さではなく、見た者に強いインパクトを与えることを目的としている。より。

 

そこへいくとF1はラリーやニュルと真逆である。タイヤやサスペンションはむき出しで、ドアも屋根もヘッドライトも助手席もない。重量は軽自動車すら200kgも凌ぐ軽さ。寝そべって窮屈に入るコックピット。タイヤは恐ろしくぶ厚い。快適性や安全性をギリギリまで削って世界最速を極限まで突き詰めた分、車体が公道車からかけ離れすぎて「もっといいクルマづくり」というスローガンの象徴にはならないし、毎年数百億円単位の大金を投資する対象にもできない。

 

章男氏が目指す「いいクルマ」とは、F1のような速さだけを突き詰めた車ではない。長時間の走行や、様々な道に対して車も人も耐え抜けるという公道車としての強さを持った車だ。そしてラリーと耐久はその強さを鍛える象徴として最も適しているといえる。

そしてラリーや耐久で鍛えた車はマーケットで販売される。レースで走りを証明した車が我々一般人にも買えるということは、車好きにとって至上の歓びだ。このようにラリーや耐久による「もっといいクルマづくり」は「Fun to Drive」の思想ともリンクしていると言える。

 

SUVながらニュルブルクリンク24時間に参戦したC-HRの試作車。雹が降るなど荒れた展開で出走158台中57台が脱落する中、完走を果たした(総合84位/クラス3位)。ドライバーからは長時間乗っても全く疲れないと評判だった。より。

 

章男氏は2017年に社内カンパニーとしてモータースポーツの部署を独立させており()、よりモータースポーツと市販車の繋がりを強め、かつレースに継続的に参戦しやすい体制を作ろうとしている。

 

以上A・Bと述べてきたように、F1の現実と章男氏の理想は大きくかけ離れすぎている。故に「自分が社長でいる限りF1復帰は無い」という言葉は、紛れもなく真実だと言える。

 

☆仮定:たった今、章男氏が社長を辞任したら?

本来ここで本稿は終えても良いのだが、章男氏の存在一つだけを理由に「絶対」と言い切るには少し説得力に欠けるかもしれない。というわけで、もし今章男氏が何らかの理由で社長の座を降りたとしたら?という仮定の話もしておこう。

 

冒頭で挙げた記事は、トヨタが10年前からハイブリッド技術をレースに持ち込んでいることをF1復帰の可能性に繋げて説明している。確かに現在トヨタはハイブリッドの研究・アピールの名目で、WEC(ル・マン24時間レースを頂点とする耐久レースの世界選手権)のLMP1クラスにハイブリッドマシンを持ち込んでいる。そこでF1もハイブリッド化された今なら、世界的な人気の高いF1の方に復帰したがるのが当然だろうという希望も含めた憶測は根強い。

 

トヨタのLMP1-Hマシン・TS050 HYBRID。市販車用ハイブリッド技術(THS-II)から運動回生技術を抽出して特化したTHS-Rを搭載。回生だけで500馬力、エンジンと併せて最大1000馬力を発生し、最高速度は340km/hを叩き出す。より。

 

しかし自分はこの仮定においても、トヨタがWECを止めてF1に参戦することは無いと考えている。その理由を以下に述べる。

 

②F1の「ハイブリッド」の特殊性―自由の無さと熱回生の問題

まずは技術面の問題から。一言で「F1もLMP1-Hもハイブリッド」と言っているが、実際にはエンジンも回生も全く違う。

F1のパワーユニットはただ一つのみの規格(ガソリン/MR/1.6L/90度V型6気筒/シングルターボ)に限定され、回生エネルギーの放出も後輪のみにしか許されない。

一方でLMP1-Hは4ストロークのピストンエンジンでさえあれば、ほぼ完全に自由。排気量も気筒数も駆動形式もバンク角も過給も自由。直列も水平対向も可能だし、MRもFFも4WDもできる。回生エネルギーの放出も前輪・後輪の片方あるいは両方にできる。

 

このようにF1とLMP1-Hは自由度に差がありすぎる。喩えるなら柔道と総合格闘技くらい自由度が違うし、当然勝つために求められる発想も異なる。

そのため簡単にハイブリッドを転用とはいかず、1から設計と研究をやり直す必要がある。

参考:

 

F1のパワーユニットはごく限られたスペースに同じ規格のエンジンを収めるため、パーツ一つひとつの配置・形状を細かく工夫してアドバンテージを稼ぐ必要がある。より。

 

もう一つ、回生技術の種類も違う。

F1は運動回生(回生ブレーキ)で回生できるエネルギー量が一周あたり最大2MJと定められている一方で、熱回生(排気熱)のエネルギー量に制限は無い。つまりF1は熱回生を極めることが勝利のカギとなっている。

2015年にホンダがF1復帰した名目はまさに熱回生の研究だ。事実、コスト高騰の最大の原因となっている熱回生を廃止しようという提案が他の3メーカーからされた時もホンダだけは猛烈に反対した。

 

一方でLMP1-Hは一周あたりの回生エネルギー放出量を2/4/6/8MJのうちから一つ選択できるが、いずれでも熱回生を用いる必要はない。そしてトヨタはTS030からTS050まで一貫して運動回生のみ。つまりトヨタはF1で勝つ上で最も重要な熱回生の技術でレースをしたことがないのだ。

 

現在F1で圧倒的な速さを誇るメルセデスは、この規定に合わせたパワーユニットを開発するのに5年をかけたという。一方ホンダは復帰宣言や噂になり始めた時期も考えると1~2年足りない。他メーカーに勝つには数年かけてパワーユニットを開発しないとダメなのだから、今決心してもすぐ参戦というのはできないわけだ。未だに熱回生を採用したことがないトヨタなら尚更である。

 

ポルシェ919 HYBRID。V4という画期的なエンジンに加え、LMP1ではいち早く熱回生とリチウムイオン電池を採用。最初に回生量を8MJまで引き上げ、参戦2年目でル・マンとWECを制覇した。より

 

実際にはTMGは将来の規約改定(10MJ回生・ERS×3)に向けて熱回生も同時に研究中だが、これはあくまで追加的な2MJのためで、熱回生を主力とする予定は当分無いとのこと。そもそも熱回生の研究はWECでもできるのだから、わざわざ不自由なF1に好んで行く理由がない。

 

③F1はメーカーにとって優先事項ではな

F1で勝つにはLMP1-Hの2~4倍もの予算が必要とされているが、実際にそれに見合った宣伝効果があるかは難しいところである。

2016年の世界販売台数トップ3グループはトヨタ・VW・GMであるが、子会社含めていずれもF1に参戦していない。トヨタはF1で8年間戦って1勝すらできず、コンストラクターズ選手権も4位止まりだった。またVWは長らくF1嫌いなフェルディナント・ピエヒが会長だったし、GMもF1に参戦したことは一度たりとも無いが、いずれも販売台数世界一を経験している。

ここで言いたいのはF1の宣伝効果は皆無ということでは無く、F1に巨額を注ぎ込まなくともブランドイメージは確立できるということである。

 

2015年ル・マン24時間のLM-GTEプロクラスで勝利したシボレー・コルベットC7.R。日本では馴染みの薄いGMだが、NASCAR、ル・マン、WTCC、英国BTCC、北欧STCC、豪州スーパーカ-、ブラジルストックカーなど世界中の「箱車」レースで多数の勝利とタイトルを獲得しており、存在感は大きい。より。

 

そもそもF1は開発競争以前に『世界一速いドライバー決定戦』である。「今のF1ドライバーはエンジニアの指示通りに運転するだけ、これではただのオペレーターだ」という批判を浴びて、FIAが無線内容を制限しようとして右往左往したのも、F1の主役はドライバーだという暗黙の前提があるからだ。

またF1はエンターテイメントでもある。超一流のドライバーたちの白熱のバトル、地上最速のマシン、戦闘機の如き大迫力の排気音、とにかく最高の興奮をファンは求めているし、FIAもそれを演出しようと躍起になっている。そのためF1のハイブリッド化を「セーブして走ってばかりでつまらない」「音の迫力が無くなった」「エコなんてF1でやることじゃない」と否定する声は、F1ファンはもちろんOBや関係者からも未だに根強い。

F1の人気とセレブリティは随一なので、露出やステータスを重視する企業には向いている。しかし大衆車メーカーが環境技術をアピールするのために参戦するのはハッキリ言って場違いである。

 

思想の違いはタイヤにも表れている。F1は小径ホイールに凄くぶ厚いタイヤで、エンターテイメントのためにわざと劣化しやすい(ハードで約150kmが限界)設計が求められる。

一方WECは大径ホイールに薄いタイヤで、耐久力が高く(LMP1の高温用ソフトで約750km走行可能)気温の著しい変化にも対応できる、より市販品に近いタイヤを開発する。より。

 

興味深いことに、近年F1参戦が噂されたメーカーは最終的にWECに参戦を決めていることが多い。

・→LMP1参戦

・→LM-GTE参戦

・→2018年にLM-GTE参戦

この流れを見ると、世界選手権を戦いたいと考えるメーカーにとってF1は魅力的でない、または仮に魅力的であったとしても障壁が高すぎるのだといえる。

実際各メーカーから、F1があまりに金がかかりすぎること、1チームの独走期間が長すぎること、エンターテイメントとの兼ね合いで規則が不安定なこと、公道車と技術やイメージがリンクしていないことなどが問題点として挙げられている。

参考:

 

2017年から世界選手権の格が与えられる、WECのLM-GTEプロクラス。フェラーリ、ポルシェ、アストンマーティンに加えて2016年にフォード、2018年にはBMWが参戦する。LMP1より圧倒的に低コストであることと、公道車のボディ・エンジンを使用するのがポイントで、近年LMP1を超える盛り上がりを見せている。より。

 

トヨタのDNAはラリーと耐久

そもそもトヨタ復帰はどれだけF1ファンに求められているのだろうか?

下のグラフはF1日本GPの入場者数と視聴率の推移だが、トヨタがF1に参戦しても撤退しても、日本のF1人気には大して影響していなかったという事実がこの数字の推移から浮かんでくる。

 

07年は入場者数28.2万で視聴率8.5%、08年は21.8万で6.6%。より。

 

日本のF1人気の低下の原因はが原因に思われがちだが、実際はそうでは無い。F1人気はそのままで入場者数が減っただけならTV観戦が増えなければおかしいが、一緒に視聴率も急落している。つまり富士開催関係なく日本人にとってのF1の魅力が落ちたと考えるのが自然だ。

 

そうしたことを踏まえると、F1人気急落の最大の原因は2008年序盤のスーパーアグリ撤退と佐藤琢磨のシート喪失、そして同年末のホンダF1撤退が相次いだためだと考えられる。逆にBARホンダがコンストラクターズ総合2位、琢磨が表彰台獲得という高パフォーマンスを発揮した2004年に視聴率が2%も伸びていることからもホンダ系のF1ファン人気に与える影響力の高さが窺える。

本田宗一郎氏やアイルトン・セナのような偉人たちのストーリーを受け継ぐホンダは、F1における正義としてファンの心をガッチリ掴んでいた。

 

それに比べるとトヨタのF1参戦・撤退は遥かに影響が小さい。参戦年の上昇は佐藤琢磨のデビュー年と被っているし、撤退翌年は入場者数こそ減っているが、視聴率は悲しいことに04年以来初めて上がっている。

なぜトヨタF1の人気が無かったのか。一つには当時のトヨタの会長であった奥田碩氏の存在がある。彼は強烈な攻めの姿勢と素早い仕事ぶりで拡大路線を展開、トヨタを世界一の企業に押し上げた。しかし一方で急激かつ過激なやり方(急激な改革と過度なコストカット―下請けイジメや深刻なサービス残業、品質管理の手薄化、スポーツタイプをほぼ全廃など)をしていたこともあり、その結果「トヨタは金儲けしか考えない」「自動車をつまらない白物家電にしてしまったのはトヨタだ」というイメージがこびり付いてしまった。それに加えて悪夢の富士開催である。現在トヨタを異常に毛嫌いしている車ファンのほとんどは、奥田会長時代のトヨタから嫌いになったと言っても過言ではない。

 

2007年F1開幕戦でサーキットを訪れた奥田会長(左、当時)。歴代のトヨタ社長で唯一経団連会長も務めたが、その言動や施策は多くの人々の神経を逆撫でした。章男氏とは当時も今も犬猿の仲。より。

 

そしてもう一つ、トヨタが元々F1と結びつくイメージが全くなかったためでもある。歴史を紐解いていくと、トヨタはラリーとスポーツカー耐久で名声を築いてきたメーカーということが分かる。

トヨタは1970年にモンテカルロラリー、1972年からはWRCへの挑戦を開始、1000湖やサファリで勝利を重ねた。90年代のグループA時代に大ブレイクし、4回のドライバーズタイトルと3回のマニュファクチャラーズタイトルを獲得している。チャンピオンマシンのセリカGT-FourやカローラWRCなどは今も熱心なファンが多い。

耐久でもトヨタは60年代の日本グランプリに始まり、日本CAN-AMやJSPC、WSPCやSWC、IMSAなど国内外問わず多くのプロトタイプカーレースに参戦し、マツダや日産と共に人気を博していた。ル・マンでは総合優勝こそ無いが幾度も表彰台に乗っており、クラス優勝も1993、1994、1999年に経験している。

参考:

 

グループC規定のTS010(1991〜1993年)。F1の如き快音を響かせる3.5L/V10NAはTRDの純製で、750馬力を発生した。小河等がSWC優勝、関谷正徳がル・マン総合2位を飾っている。

 

このようなトヨタの20世紀のモータースポーツ活動と現在の活動を合わせて鑑みると、F1参戦は奥田政権下のイレギュラーな出来事にすぎないといえる。事実、F1に参戦しているときも、「トヨタはF1のイメージと合わない」という声が多く聞かれていた。これらのことから、急激な路線転換となったトヨタのF1活動は多くのファンから歓迎されていたとは言いがたい。

 

ホンダはF1を知らない人やライトなファンにも受け入れられやすい歴史とイメージを持っていた一方、トヨタにはそうしたものがなかったことが人気の大きな差に繋がったと言える。トヨタとホンダは市販車ラインナップの傾向こそ似通っているが、レースにおける立ち位置は本来かなり違う。

逆に今のホンダが「走る実験室」を理由にしながら、なぜ規制の緩いWECではなくて不自由なF1の方に復帰したのかといえば、それは歴史に基づく「ホンダはF1」というイメージを重視したからに他ならない。同様にフェラーリやマクラーレンが半世紀もF1に参戦し続けるのも、F1のイメージでブランドが持っているからである。このようにイメージに合致したカテゴリ選択は、企業にとって非常に大きな意味を持っている。

そういう意味でも社長就任時に「原点回帰」「本来のトヨタの良さを取り戻す」と表明した章男氏が、昔ながらのラリーと耐久に回帰するのは自然なことである。

 

※「走る実験室」は第一期ホンダF1監督の中村良夫氏の言葉だが、実際はにすぎず、中村氏自身もこの言葉を嫌っていたという話がある。

また第二期ホンダF1監督の桜井淑敏氏は本田宗一郎について「勝てないレースはやらない」と語っている。

 

グループA規定のセリカGT-Four ST185(1992〜1994年)。カルロス・サインツ、ユハ・カンクネン、ディディエ・オリオールの3人をWRC王者に押し上げた名車。今では絶滅したリアクタブルヘッドライトが目を引く。

 

今のトヨタもプロトタイプカー耐久で地位を確立している。2016年のル・マンでの大敗はその象徴的な出来事だった。

2015年に圧倒的な資金力で、1周につき5秒という耳を疑うような大進化をした新旧耐久王ポルシェ・アウディと、両者の前にもはや為す術無しと思われたトヨタ。しかしTMGは過密スケジュールでTS050を一年前倒しで投入する頑張りを見せる。その甲斐あって2016年のル・マンでは直前までのイメージを覆した。優れたペースと一周分の燃費の良さを武器にポルシェとアウディを徐々に追い詰めていく。

そして誰もがトヨタの勝利を確信した23時間53分30秒、中嶋一貴の身も凍る無線「I have no power!!」誰もがまさかと思った大逆転負け。初挑戦から30年以上、やっとトヨタが勝つと思ったのに、残りわずか3分で力尽きるTS050に、みな言葉と力を失った。

 

マシンが完全に止まったのと同時にポルシェ2号車に抜かれた場所がホームストレート上であったことが、悲劇性と同情を増幅させた。スタート前「ル・マンキング」の異名を持つジャッキーイクスは「ル・マンに優勝することはできない。ル・マンが君を優勝させるのさ」と語っていたという。

 

しかしそんなトヨタに世界中のモータースポーツファンが賞賛を惜しまなかった。ライバルのアウディも「」とツイートし、ポルシェもル・マン勝利の各宣伝にトヨタへのリスペクトを添え、そしてWECの公式すらも「」とエールを送った。

かつて「金だけ湯水のように注ぎ込んでいるくせに勝てない」「モータースポーツを知らない」「F1から出て行ってくれ」と人々から疎まれ、憎まれ、叩かれ続けたトヨタF1とは対極の姿である。ドイツの耐久王たちに挑み続ける挑戦者として、ル・マンで人々に愛されるトヨタGAZOOレーシングとして生まれ変わった瞬間だった。

参考:

 

③で宣伝効果のことを取り上げたが、企業がモータースポーツ活動をする上での本当の宣伝効果は目先の販売台数よりも熱烈なファンを獲得することである。そういう意味では、この時点でWEC参戦は成功だったといえるだろう。

 

しかし仮にル・マンで一回勝ったからと言ってホイホイF1に転身してしまえば、その成功は灰燼に帰す。それはトヨタがF1撤退時にも非難された、「モータースポーツ文化を理解していない」行為である。世の中にはF1よりWECの方が好きなレースファンも大勢いる。アウディが撤退した今、もしトヨタも撤退してしまえばWECは確実に退屈なものになるのは必至だし、それどころかWECというシリーズと文化を潰してしまいかねない。

 

アウディが今日までに新耐久王という名声を築けたのは憎たらしいほどの強さに加えて、18年間に渡って参戦し続けたことにある。アウディがル・マンで活動していた期間の多くは、メーカー系のライバルはプジョーやトヨタ1社のみだったし、時には0社だった時もあった。しかしそれでも長い間ル・マンの伝統を支え続けたからこそ、揺るぎないブランドと尊敬を築いた。

トヨタも、もしル・マンで真の成功を得るならば勝利という記録に囚われずに参戦し続ける必要がある。勝ったら覇者として挑戦者を待ち受け、負けたら挑戦者として覇者に立ち向かう。その姿勢こそがファンの支持を集めるのである(AUTOSPORT2/17号で同様のことをTMGの村田久武氏も語っていた)

 

また「トヨタは簡単に勝てるル・マンに逃げた」という意見も散見されるが、それも間違っている。この半世紀以上の間、F1でもル・マンでも、優勝できた日本メーカーは各一社だけであることからも分かる様に、どちらも等しく難しいレースだ。トヨタが2位止まりのままなのはF1もル・マンも同じであり、「簡単に勝てる方」など存在しない(元々トヨタはプジョー・アウディと戦う覚悟を持って参戦を表明していた)。

現在残っているライバルは、フェラーリに並ぶスポーツカーメーカーであり、ル・マン総合優勝18回の金字塔を持つポルシェ。グループC時代から日本勢を幾度となく退けてきた彼らに挑み続けることは栄誉と呼ぶに十分足る。

 

2013年ル・マン24時間のオープニングラップで、アウディ艦隊を切り崩してトップに襲いかかるトヨタ。LMP1の台数こそ少なかったが、異なるハイブリッドを搭載した両雄の闘いはファンを熱くさせた。

 

☆まとめ

②〜④を一言でまとめれば「トヨタがF1復帰しても勝てるまでに途方もない金と時間がかかるし、その割にトヨタにもモータースポーツ文化にもメリットは薄い」。なので当ブログでは章男氏抜きにしても「トヨタにF1を期待すべきではない」と結論したい。

日本のF1人気の再興と日本人のF1初優勝の願いは、F1のDNAを謳い続けるホンダにこそ託すべきだろう。

 

ルノー、アウディ、VW、DS、ジャガー、マヒンドラ、ヴェンチュリー、BMWと多数のメーカーが名を連ねるフォーミュラE。F1の1/10未満の低コストで電気自動車技術のアピールができるのが特長。世界中の自動車メーカーがF1を目指す時代は終わりつつある。より。

トヨタ あなたのビジネスに最適を

(追記)
昌磨くんのニュースを追加し、ジェイソンのプロトコル、ひろあきくんの動画を貼り込みました。

゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆


昌磨くん、5クワド成功、サルコウも決めてSP,FSともに一位。おめでとうございます。

プロトコル 







2位はジェイソン。
美麗スパイラルがたくさん、伸びやかでしなやかで、ぐいぐい引き込まれていく。ぐっと魅せてくれました(^O^)/




ラトデニくん。
後半、突然アップテンポに変化してびっくり。美しくてカッコよくて、飽きさせない演技で最後のステファンとのハグまでワクワクо(ж>▽<)y ☆



ひろあきくんも、がんばった(^-^)/ 総合12位。
4T残念だったけど。観客が湧いてるo(^▽^)o







ニュースも沢山!!

◆“真4回転時代”は激化の一途 宇野は4種類成功、チェンは5種制覇
 「フィギュアスケート・ロンバルディア杯」(16日、ベルガモ)

 男子フリーが行われ、昨年の世界選手権銀メダリストで、SP首位の宇野昌磨(19)=トヨタ自動車=は、フリーでも自己ベストとなる214・97点をマーク。総得点でも昨季の世界選手権を0・53点上回る自己ベストとなる世界歴代2位の319・84点で2連覇を達成した。宇野はSPでも自己ベストを0・01点更新しており、今季初戦でいきなりSP、フリー、総得点とも自己ベストをマークした。
 宇野はこのフリーで4回転サルコーを見事に初成功。宇野にとってフリップ、ループ、トーループに続いて、4種類目の4回転ジャンプ成功となった。この日、米国で行われたUSインターナショナルでは、ネーサン・チェン(18)=米国=が初めてループを成功させ、史上初めてのアクセルを除く5種類の4回転ジャンパーとなったばかり。宇野はルッツも習得に取り組んでおり、平昌五輪シーズンはまだ始まったばかりだが、“真・4回転時代”は、早くも競争激化の一途をたどっている。
 次週に行われるオータムクラシック(カナダ・モントリオール)には世界王者の羽生結弦(ANA)が今季初戦に登場。この流れを受けて、王者の戦い方に注目が集まる。
 昌磨くんの写真3枚あり。衣装がゴージャス!!



◆より

平昌五輪へ向けて順調な第一歩
 
 未知の領域へ挑戦し、優勝した。今季の宇野はフリーに5度の4回転ジャンプを組み込む。「フリーに関しては練習でもできていないことが多い」と手探り状態の中でも、平昌五輪へ向けて順調な第一歩を踏み出した。
冒頭のジャンプは迷った末、4回転ループに決めた。さらにサルコー、フリップ、トーループも。演技前の6分間練習は「やるジャンプが多いのですごく大変。一度つまずくと全部できない」と新たな難しさも抱える。それでも「そんなに焦らなくていい。シーズンは長い」と自信を胸に、冷静に演技に挑んだ。
 
 「練習はおろそかにしていないが、どういう演技になるかは分からない。今の自分を確認したい」と語って臨んだ大会。しっかりとまとめてみせた。(共同)
 






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